Amazon.com輸出セラーは米国LLCを作るべきか?消費税還付・セールスタックス・FBAと5472で判断する
はじめにお読みください: 本記事は日本の公的資料・公表資料を引用して整理した一般的な情報です。日本側の申告・判断は税理士にご相談ください。当所は米国側の申告のみを担当します。
要点まとめ
Amazon.com で日本から販売するのに、米国 LLC は必要ありません。 ほとんどの日本人セラーは日本の個人事業主または日本法人として出品し、Payoneer などの受取口座で売上を受け取っています。LLC を作ると、日本の消費税還付の経路が変わり、米国では利益ゼロでも毎年 Form 5472 の申告義務が生じ、日本では外国子会社合算税制の検討対象になります。当所は Form 5472 の申告を業務にしていますが、必要のない LLC を作ることはお勧めしません。 LLC が本当に役立つのは、Walmart などの参入要件、輸入者(IOR)の必要性、複数の米国取引先との契約など、日本の事業者のままでは越えられない壁がある場合です。以下、判断材料を順に並べます。
1. 日本人セラーの大多数は米国法人なしで販売している
米国法人は Amazon.com 出品の条件ではありません。 Amazon が 2025 年 4 月に発表した資料によれば、Amazon.com と Amazon.co.uk の JAPAN STORE で販売する日本企業は約 1,100 社で、2024 年の販売個数は前年比 17% 以上増、両ストアでの日本企業の売上合計は 9,200 万ドル超とされています(About Amazon Japan)。これは JETRO と連携した日本企業向けプログラムであり、参加者は日本の事業者です。
売上の受け取りも、米国法人なしで完結します。Amazon 輸出の実務解説サイトは、ドル建て売上の受取方法として Payoneer、World First(2022 年 5 月以降は新規受付終了)、そして「米国法人を設立」の 3 つを挙げたうえで、「これから副業で Amazon 輸出に取り組まれる方にとっては、急に米国法人を持つなんて敷居の高いことができるわけありません」と述べ、初心者の大多数は口座レンタル型のサービスを使うと説明しています(CPA エクスポーター)。Payoneer と米国銀行口座の違いも参考にしてください。
つまり出発点は「LLC を作るか」ではなく、**「日本の事業者のままで何が困るか」**です。
2. 消費税の輸出免税と還付:LLC を挟むと経路が変わる
Amazon 輸出の最大の税務メリットとしてよく語られるのが消費税還付です。仕組みを国税庁の資料で確認します。
- 輸出免税: 「国内からの輸出として行われる資産の譲渡または貸付け」は消費税が免除され、適用には輸出許可書等の書類を 7 年間保存する必要があるとされています(国税庁 No.6551 輸出取引の免税)。
- 免税事業者は還付を受けられない: 基準期間の課税売上高が 1,000 万円以下の事業者は納税義務が免除されますが、その場合「課税仕入れ…に係る消費税額の控除もできません」。還付を受けるには「課税事業者選択届出書を提出して課税事業者となっている者」等である必要があります(国税庁 No.6613 免税事業者と仕入税額の還付、No.6501 納税義務の免除)。
- 手続き: 実務解説では、事業開始初年度は年末までに届出書を出せばその年から、2 年目以降は「適用を受けようとする課税期間の初日の前日まで」に提出が必要で、原則 2 年間は免税事業者に戻れないとされています(CPA エクスポーター)。
ここで LLC を挟むとどうなるか。還付を受けるのは「日本で課税仕入れを行い、輸出取引を行う課税事業者」です。 販売主体を米国 LLC(日本の税務上は外国法人)にすると、日本の個人・日本法人としての還付の経路とは別の話になります。外国法人が日本で消費税の納税義務者になり、納税管理人を通じて申告・還付を受ける仕組み自体は存在するとされていますが(AWI Tax Consulting)、これは日本国内で販売する外国法人を念頭に置いた解説であり、日本から輸出する米国 LLC が同じ経路を使えるか、実務上一般的かは当所では判断できません。一般には、LLC を販売主体にすると還付は取りにくくなるとされています。税理士にご確認ください。
還付が事業の利益率を支えているセラーにとって、この一点だけで「LLC なし」が答えになることは珍しくありません。
3. セールスタックス:Amazon 分は Amazon が処理、FBA 在庫は別問題
Amazon.com での販売分については、マーケットプレイス・ファシリテーター法により Amazon が税を計算・徴収・州に納付します。 これは LLC の有無に関係なく同じです。
ただし 2 点、残ります。第一に、FBA 在庫は保管されている州で物理的ネクサスを生みます。ネクサス=申告義務ではありませんが、州によってはマーケットプレイスのみのセラーにも登録やゼロ申告を求めることがあります。第二に、自社サイト(Shopify 等)での販売は Amazon の徴収の範囲外で、ネクサスのある州では自分で登録・徴収・申告します。詳しくは FBA 在庫とセールスタックスのネクサスを、必要な場合は売上税の登録・申告サービスをご覧ください。日本の消費税との構造の違いはアメリカのセールスタックスと日本の消費税の違いにまとめています。
4. FBA 倉庫と恒久的施設(PE):未整理の論点
FBA 倉庫の在庫が日本の税務上の「恒久的施設(PE)」に当たるかは、明確ではありません。JETRO の解説では、「企業の物品または商品の保管、展示または引き渡しのためにのみ施設を使用する場合」は PE から除外され得る一方、2017 年の OECD モデル改正で除外は「準備的・補助的な性格の活動」に限られ、細分化防止規定が導入され、「最終的には当該国の税務当局の取扱い次第である」とされています(JETRO 恒久的施設(PE)とは)。この論点は LLC の有無とは独立に存在します。米国側での実質関連所得(ECI)の議論は FBA と ETBUSで扱っています。日本側の判断は税理士にご相談ください。
5. LLC を作った場合に毎年発生すること
LLC を作ると決めたなら、次の義務が売上の有無にかかわらず毎年発生します。
| 義務 | 頻度 | 内容 |
|---|---|---|
| Form 5472 + pro forma 1120 | 毎年(4 月 15 日、延長で 10 月 15 日) | 外国人所有 LLC の情報申告。利益ゼロでも設立時の出資や年会費の立替えがあれば必要。未提出は $25,000 のペナルティ対象 |
| EIN | 設立時に 1 回 | Amazon の税務情報、銀行口座、5472 のすべてに必要。SSN なしで取得できます |
| Wyoming 年次報告書 | 毎年(設立月の初日) | ライセンス税は最低 $60。期限後 60 日で行政解散 |
| 登録代理人 | 毎年 | 州法上必須。業者により年 $50〜$150 程度 |
| FBAR | 該当年のみ | LLC が米国外に口座を持ち、合計ピークが $10,000 超なら FinCEN Form 114 |
| 1040-NR | ECI がある年 | 米国で実質関連所得があると判断される場合のオーナー個人の申告 |
| 日本側:合算税制の検討 | 毎年 | 日本の居住者が 50% 超を保有し、租税負担割合が 20%(ペーパーカンパニー等は 27%)未満なら外国子会社合算税制の検討対象とされています |
最後の行は見落とされがちです。米国で事業体レベルの税負担がゼロの LLC は、日本の物差しでは「租税負担割合が低い外国関係会社」そのものです。米国で税金がかからない=日本でもかからない、ではありません。 詳細は米国 LLC は日本の税務上どう扱われる?にまとめました。日本側の判断は税理士にご相談ください。
6. 判断表:LLC なし/LLC あり
| 判断材料 | LLC なし(日本の事業者として出品) | LLC あり |
|---|---|---|
| 月商規模 | 小〜中規模。固定費を吸収する必要がない | 固定費を吸収でき、かつ他の理由がある場合 |
| Walmart 等の参入要件・米国取引先との契約 | 参入できない、または契約相手として受け入れられない場合がある | 米国事業体を求められる場面で有効 |
| 輸入者(IOR)の必要性 | 通関業者・IOR サービスに依存 | LLC が IOR になれる場合がある(通関業者にご確認ください) |
| 消費税還付 | 課税事業者として還付の経路がある | 経路が変わり、一般には取りにくいとされる |
| 米国の申告 | Amazon の税務情報(W-8BEN)のみ | Form 5472 + pro forma 1120 毎年、EIN、年次報告、場合により FBAR・1040-NR |
| 日本側の追加論点 | 通常の所得税・消費税 | 外国法人扱い、合算税制、国外財産調書・国外送金等調書 |
| 管理コスト | 低い | 年間の固定費+日米両側の専門家費用 |
「月商 1,000 万円以上でないと海外法人は無意味」という言説について。 これは一般化しすぎです。LLC を作る理由は売上の大きさではなく、日本の事業者のままでは越えられない壁があるかどうかです。月商 300 万円でも Walmart や米国の卸先との契約に米国事業体が必要なら LLC に意味がありますし、月商 2,000 万円でも Amazon のみで還付が利益の柱なら LLC を作る理由は薄いままです。ただし固定費が実在する以上、小規模で LLC を持つ理由が薄いのも事実です。 当所の料金で言えば、Form 5472 + pro forma 1120 が年 $349、EIN が $129(設立時 1 回)、これに州の年次報告と登録代理人を加えたものが最低ラインで、ECI があれば 1040-NR($449 から)、海外口座があれば FBAR($99)が加わります。この固定費を「壁を越える価値」が上回るかどうかが判断です。
7. 正直な結論
- Amazon.com だけで販売し、消費税還付が利益を支えているなら、LLC を作らないのが自然な選択です。
- Walmart や米国の卸・小売との契約、IOR の必要性など、米国事業体でなければ越えられない壁があるなら、LLC は道具として有効です。 その場合は固定費と日米両側の論点を理解したうえで作ってください。
- すでに LLC を作っている場合は、未提出の年分がないか確認してください。 複数年未提出の整理で手順を説明しています。
当所は LLC の設立を代行していませんし、作るべきかどうかで手数料を得ることもありません。作った LLC の米国側の申告を、米国の税務申告専門家が作成・署名するのが当所の仕事です。
公式参照: 国税庁 No.6551 輸出取引の免税 · 国税庁 No.6613 免税事業者と仕入税額の還付 · 国税庁 No.6501 納税義務の免除 · JETRO 恒久的施設(PE)とは · About Amazon Japan — JAPAN STORE の販売動向 · 財務省 外国子会社合算税制の概要。
次のステップ
自分の LLC に今年どの申告が必要かは、セルフチェックで 2 分で確認できます。Form 5472 と pro forma 1120 が必要なら、申告サービスで承ります。日本側の申告・判断は税理士にご相談ください。当所は米国側の申告のみを担当します。
本記事は一般的な情報であり、日本または米国の税務・法務上の助言ではありません。日本側の記述はいずれも引用元の公表資料の要約であり、個別の事実関係への当てはめは税理士の判断を要します。
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よくある質問
Amazon.com で販売するのに米国法人や LLC は必須ですか?
米国 LLC を通して販売すると、日本の消費税還付は受けられなくなりますか?
Amazon がセールスタックスを徴収してくれるなら、LLC は何もしなくてよいのですか?
FBA 倉庫に在庫を置くと、日本の税務上の恒久的施設(PE)になりますか?
米国 LLC を作った場合、利益がゼロでも米国で申告が必要ですか?
「月商 1,000 万円以上でないと海外法人は無意味」というのは本当ですか?
米国で税金がかからない LLC なら、日本でも何も起きませんか?
すでに LLC を作ってしまい、何も申告していません。どうすればよいですか?
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